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男は病人から房一へぎろりと眼を移すと、
相手はしばらく黙つていた。だが、場所が高いのと、柵の中にいるためか、落ちついて答へた。
「まあ、いゝでせう。せつかくぢやありませんか」――
この分では永くなりさうだと思つて、房一が腰を浮かし気味にすると、
ゆつくりと時間をかけて、楽しみ楽しみ喰べた。それは喰物のおいしさよりも、かうやつて小娘のやうな真似をするのがおいしかつたのだつた。
「いや、鳴つた。出張所の鐘がたしかに鳴つていた」
男は面喰つて何を云はれているかはつきり判らないらしかつた。房一はその眼の中をしつかりとのぞきこみながらつゞけた。病院づとめの生活で、房一は患者の気持をのみこんでいた。たとへ病気がはつきりしなくても正直にありのまゝを云ふのは禁物だつた。病人は何か断定を欲するものだ。今の場合は別だが、十二指腸虫といふ名前さへろくに知らないこの男に、いきなりその病源を云つたところで疑はしく思ふのは明かだつた。
と、下の男は睨み上げた。
今度は正文の方で答へなかつた。そして急に苦がい顔になつて、ぢろりと薬戸棚を見まはしただけで母屋おもやの方へ帰つて行つた。
病人は十七になる相沢の一人息子で、県庁のある市の中学寄宿生だつたが、軽い肋膜炎でかなり前から家でぶらぶらしているといふことは、昨夜来た使ひの者から聞いていた。
さう云ひすてて、大きな音を立てて下駄をひきずりながら立去つたのだ。
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